2006年04月05日

東良三(あずま りょうぞう)とMuir

西村さんから、「東良三」の書いた”アラスカ:最後のフロンティア”(山と渓谷社)のあとがきの部分を送っていただきました。それによると、1910年(明治43年)、東は、ワシントン州Tacoma付近のミッション系大学Puget Sound Collegeに入学しました。やがて、Mt. Rainierに登るチャンスが来、その途中、キャンプMuirという場所(洞穴)で一夜を過ごすことになりました。東はそのとき初めてMuirの存在を知り、これをきっかけにMuirの著書を買い集め、読み始めます。やがて東はMuirにMartinezを尋ねたい旨を書き送ると、快諾の返信が届きました。

「そして私は、1914年、卒業前の夏期休暇にタコマから遠くサンフランシスコまで一日半の汽車の旅をつづけ、さらに金門湾から75キロも北方のマルティネッという農村まで馬車にゆられて、あたかも最後の著となった『アラスカ氷河探検記』の執筆に余念のなかった老先輩ミュアを、果樹園にかこまれた広大な私邸に訪ねたのでした。私はときに二十五歳のとるにたらぬ一苦学生。五十も年長の偉人との出会いは、とても釣りあいのとれぬ妙なコントラストだったといえましょう。しかし、遠路を訪ねてきた日本人ということで、こころよく迎え入れてくださった老師の純白の長いひげを見たとき、あたかもいにしえの聖人のような気高さを感じました。そしてしっかと私の小さな手を握ってくださった掌の暖かさ。私は思わず師の脚下にひざまづいて、うやうやしく頭をさげました。私のミュア邸逗留は二日一晩にすぎませんでしたが、この高名な大自然人の知遇を得たことは、その後の私の生涯に、直接間接に大きな影響をあたえずにおきませんでした。」(265ページより)

西村さんの資料をEber氏に送ると、こんどは氏の方から、Sierra Club Bulletinの写しが送られてきました。ほんの一部だけですが、それによると:
1973年、Kimes夫妻が、Muir関連の資料を調べていたとき、Mr. IshigakiがMuir家に本の翻訳の許可を申し出ていたことがわかります。その追伸から、1942年に”Travels in Alaska”の翻訳がなされていたことがわかります。その本を探すため、Muirの伝記を書いた東に問い合わせると、”Travels in Alaska”は、東から(間接的に)本を借りた戸伏により翻訳されたことがわかりました。東はやがて米国を訪れ、Kimesらと会います。それ以降の幾度かのインタビューに基づき、このSCBの記事が書かれました。Muirとの出会いについては、SCBの方がやや詳しく書かれています。Oaklandに着いたときに、Sierra Clubのメンバーが馬車で迎えに来て、6時間かけてMartinezに着きました。Muirの脚下にひざまづいたときには、涙したようです。また”Travels in Alaska”を執筆中の2階の勉強部屋へも案内してもらいます。そこにはヨセミテ渓谷の大きな絵[註:多分Keithの絵]と、Emersonのポートレイトが掛かっていたこと、また机の上には大きな聖書が載っていたそうです。また”Cruise of the Corwin”以来のMuirの友人である船長のHooperが夕食時にMuir邸を訪れ、たまたま船員(キャビンボーイ)を探している話になり、Muirが”Take Ryozo! He should see Alaska”と言いました[註:それがアラスカ旅行(1915年−1918年)のきっかけとなりました]。1977年に東は、自然保護やMuirの伝記「自然保護の父ジョン・ミュア」の功績を認められ、Sierra Clubの生涯名誉会員となりました。東は、アメリカ大陸(西部)で140峰以上を登り、アラスカへも9度訪問しました。

Kimesの本より:
東は、”Stickeen”を訳して雑誌に投稿したそうです。しかし、本人ですらその雑誌を、所有していなかったそうです。また”Travels in Alaskaは、東京大学のIto教授に貸され、それから戸伏の手に渡り訳されたそうです。東によると、訳の出来はかなりすばらしかったとのこと(1942年出版、3,000部刷)。

Ronald Eber氏はかなり真剣に資料を探しています。新聞・雑誌記事など(特に日本の国立公園設立に関するあたり)、どのような物でも結構です、見かけられましたらご一報ください。

東の主要著書:
北米大陸の探検時代(上・下)
四十八州アメリカ風土誌
アラスカの背前途人と資源
アメリカ国立公園考
カナダの山岳と国立公園
カナダという国
ローマへの道、聖地巡礼の旅
自然保護の父ジョン・ミュア
その他十数冊

投稿者 toshi : 2006年04月05日 14:01
コメント

早速としさん、Eber氏のお役にたてて良かったです。

D大学所蔵の資料についても、日をあらためて調べておきます。

Posted by: にしむら : 2006年04月05日 17:13

Sierra ClubのサイトにKimesの記事がありました。リンクしておきました。

Posted by: toshi : 2006年04月17日 00:46
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