アメリカの国立公園事情

text by 西村仁志


■アメリカの国立公園
 アメリカは世界で最初に国立公園制度をつくった国である。1872年のイエローストーン国立公園創設から8年前にさかのぼる1864にはリンカーン大統領の署名によりヨセミテがカリフォルニアの州立公園に指定されている。日本はまだ幕末の頃であり、またアメリカもまだ南北戦争の最中であった。そんな時代にすでにこの国の政府関係者が自然の保護について真剣に考えていたというのは驚くべきことだ。現在では海外領を含む全米に54の国立公園があり、アメリカ国民だけではなく世界中から多くの訪問客を迎えている。


■アメリカの国立公園の姿勢
 19世紀から20世紀初頭にかけ、カリフォルニアやアラスカの山野を歩き、生活し、大自然から多くのことを学びとった「アメリカ自然保護の父」ジョン・ミューアは、活動の基本的姿勢として、「自然の美しさ、すばらしさを多くの人々に知ってもらうこと。」を旨としていた。「知らない人に自然保護を訴えてもわかってもらえない。」と。ミューアは当時放置されていた森林の伐採、家畜の無制限な放牧などの危機的状況を新聞を通じて世に訴える一方で、多くの人たちを大自然の中へと誘い、自らが自然ガイドとなって自然の大切さを、「体験を通じて」知らしめたのである。アメリカの国立公園の運営方針の原点はこの「体験を通じて」にある。「立ち入り禁止」として遠ざけるのではなく、むしろ積極的にふれあって実体験してもらい、その大切さを実感し、自然保護と国立公園局(ナショナル・パーク・サービス)の良き理解者を育てることが国立公園における普及、啓発活動の役割である。つまり利用者の「自然とのふれあい活動」に政府として積極的に関与していく方針がみられるのである。
 日米の国立公園の違い日米の国立公園で大きく異なるのは、アメリカの国立公園はすべて連邦政府の所有する国有財産であるということである。「えっ、では日本はそうではないのか?」と思われる方も多いだろう。日本の国立公園・国定公園は法律に基づいた地域指定であり、この中には国有林や公有地、民有地などが多くの面積を占めている。つまり土地利用の規制をかけているだけにすぎないのである。アメリカでは連邦政府直轄地であるから、国立公園内では州政府の権限も及ばない。国立公園局が自然、動植物、文化財等の保護と利用のほか、警察・消防などの公共サービス、園内施設の経営管理などさまざまな責任を担っている。
 またほとんどの国立公園が有料であるという点も日本とは異なっており、ゲートでレンジャーに入園料を支払うしくみになっている。これらの収入は国立公園の維持管理に充てられるのだ。さらに、両国の国立公園にかける国家予算(日:36億円、米:1900億円)公園管理を担当する公務員の数(日:110人、米:9,500人)などを比べてみても、アメリカの国立公園の充実ぶりには脱帽せざるを得ない。(いずれも平成3年資料)
■日本からアメリカの国立公園への行き方
 全米54の国立公園のほとんどは都会からほど遠い大自然のなかにあるため、日本からのアプローチ事情は良くない。一般的な観光ルートからも外れるので、個人自由旅行として行くことになる。そして空港から公園までのアクセスはもちろん、広大な国立公園内をめぐる足としても「レンタカー」が必須となるだろう。例外はハワイにあるハワイ火山国立公園(ハワイ島)とハレアカラ国立公園(マウイ島)、そして西海岸からのアクセスの良いヨセミテ国立公園(カリフォルニア州)とグランドキャニオン国立公園(アリゾナ州)であろう。これらは多くのパッケージツアーや現地オプショナルツアーのコースに含まれており、日本からも手軽に行くことができる。
■アメリカの国立公園の楽しみ方〜ヨセミテ国立公園を例に
 ヨセミテ国立公園は、アメリカ・カリフォルニア州シェラネバダ山脈内にある。サンフランシスコから自動車で約4〜5時間と比較的足の便がよく、日本からも多くの観光客が訪れている。3,029平方キロ(東京都の約1.5倍)もの広大な面積のなかに「エルキャピタン」、「ハーフドーム」などの有名な巨岩群、落差700mを超える「ヨセミテ滝」など壮大な風景のヨセミテ渓谷、世界一の大きさと寿命をもつジャイアントセコイアの森、そして高原地帯、山岳地帯など多様な環境がある。

 ヨセミテ国立公園には国内外から年間400万人ものビジターが訪れている。興味や体力や日程、予算に応じて多様な楽しみ方ができるのもヨセミテの魅力だ。
1.ホテル滞在型
公園内には4つのホテル、ロッジが通年営業している。ここにはレストランもあり、ホテルタイプの部屋でゆっくりと滞在しながら自然を満喫することができる。多くのVIPも泊まったという「アワニーホテル」ではジャケットやドレス姿で豪華なディナーを楽しむことさえ可能だ。これらホテルは366日前からの予約となっているが夏のいい時期にホテルの予約をとるのはなかなか困難である。
2.キャンプ型
家族や仲間たちと安価に長く滞在したいのならキャンプだろう。公園内にはクルマでアプローチできるところに多くのキャンプ場がある。各サイトごとにテーブル、クマ除けの食料ボックス、焚き火用の炉があり、トイレや水場も完備している。また公園内には食料やアウトドアグッズのショップもあるため、ヨセミテに「手ぶら」で来てもキャンプ用品一式をすべて買いそろえることが可能だ。これらキャンプ場も4ヶ月前からの受付だが、夏場に人気のあるキャンプ場は予約がすぐに埋まってしまう。
3.バックパッキング型
バックパックを担いで、公園内の広大なウィルダネスエリア(原生自然エリア)を楽しむのもヨセミテの醍醐味のひとつだ。ヨセミテでは各ルートあたりの1日の入山者数が決められていて、あらかじめ許可を申請して入山する。山中でのキャンプのルールも細かく定められていて、とくに野生のクマには慎重な対策が必要だ。
 またヨセミテ国立公園では、ガイド付きのバスツアー、乗馬によるツアー、レンタサイクル、ラフティング、クライミング教室(ヨセミテはフリークライミングのメッカでもある)など充実した活動メニューがある。しかしいちばんのおすすめはデイパックを背負って、まる1日かけて自分の足で国立公園を歩いてみることだ。スケッチブックに色鉛筆などを持っていけば「にわかアーティスト」に変身することもできる。時間をかけて自分の足でじっくりと歩き、感性を開いて自然と触れ合うことが、お金をかけない最高の贅沢なのだ。旅慣れている欧米の人たちがどのように過ごしているか、よく見てみればいい。彼らはお金を使わずに旅先で楽しむ方法をよく知っている。
■レンジャープログラムに参加しよう
 もうひとつのおすすめはレンジャープログラムに参加することだ。ヨセミテに限らず、ほとんどのアメリカの国立公園ではパークレンジャーによる無料の解説プログラムが行われている。無料とはいっても、彼らは国家公務員/プロの解説者であるから、その内容は興味深く、たいへん質の高いものである。
 レンジャープログラムに参加するには申し込みも、予備知識もなにも必要なく、スケジュール通りに集合場所にいくだけでいい。(一部には有料のもの、事前申し込みが必要なものもある。また「弁当持参」「暖かい服装で」と明記されているプログラムもあるので、ビジターセンターや情報紙で必ず確認必要。)1〜2時間程度のウォーク&トーク、日帰りハイキング、スライド&トーク、キャンプファイヤー&トーク、歌など形態もさまざま。またテーマも、動物、植物、地学、天体、歴史、先住民の文化、詩や音楽などさまざまである。これらはすべて英語なのだが、「英語は苦手でさっぱりわからない」という方も億劫がらずに一種のエンターテイメントと思って参加してみるといいだろう。
■インターネットでの情報収集
最近ではインターネットの発達で、日本に居ながらにしてアメリカの国立公園に関する情報を入手することができる。さらには国立公園を訪れるための旅の情報ページも数多くある。参考までに入口となるURLを示しておく。
国立公園局「Park Net」全米の国立公園についての公式ホームページ http://www.nps.gov
「ヨセミテ国立公園大好き!」筆者が開設しているホームページ。リンク集も参考になる。https://yosemite.jp


この文章は三栄書房「ナショナル・パーク・ホリデー〜野遊び山遊び大作戦」2000.11.21発行に掲載されたものです。


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Hitoshi について

西村仁志です。環境共育事務所カラーズ&広島修道大学。

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